大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)63号 判決

原告 織田裕三朗

被告 東京都公安委員会

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、訴状に基づき、「原告が代表者となつて昭和四四年四月六日午後三時から同六時まで実施する集会、集団示威運動についてした許可申請に関する被告の処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告は、昭和四四年四月六日午後三時から同六時まで実施する予定の集会、集団示威運動の代表者となつて被告に対しその許可の申請をしたところ、被告は、何ら正当の理由なくして右申請書に手を加え、一部を抹消する等の暴挙を敢えてしたが、被告のしたこれらの行為は、憲法、東京都公安条例に違反し、原告の政治活動に対する違法な干渉であるから、その取消しを求めると述べた。ところが、右陳述のなされた昭和四四年四月二二日午前一〇時の第一回口頭弁論期日において、前記申請に係る集会、集団示威運動の日時は徒過するにいたつたので、本訴請求を新たな被告東京都および下稲葉耕吉に対し、国家賠償法の規定に基づき、金一万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いの請求に変更する旨の申立てをした。

被告代理人は、主文と同旨の判決を求め、その理由として、本件訴えの対象たる処分は、原告の申請に係る集会、集団示威運動の実施されるべき昭和四四年四月六日の経過とともにその効力を失なうにいたつたので、本件訴えは、爾後その利益を喪失したものというべきであると述べ、原告の前記訴変更の申立てについては異議がある、と付陳した。

理由

まず、原告の訴変更申立ての許否について判断する。

取消訴訟の請求を損害賠償の請求に変更するには、当該取消訴訟の目的たる処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体を被告とすべきこと行訴法二一条一項の明定するところであるが、原告の右申立てによる被告下稲葉耕吉がこれに当らないことは、明らかである。

また、取消訴訟の請求を維持しがたくなつたため、原告が事務の帰属主体を被告として損害賠償の請求訴訟を提起せんとする場合において、行訴法二一条一項が、別訴によるべき民訴の原則に従うことを要求することなく、訴えの変更によることができる旨の便法を認めたのは、従前の訴訟手続によつて生じた法的効果を維持し、また、そこに顕現された訴訟資料の利用を可能ならしめるという当事者の利益の保護と訴訟の経済をはからんとする配慮に出たのであるから、かかる便法を認めるに足る基盤の存在しないときは、同条にいう「変更することが相当である」場合に該当しないものとしてその申立てを許さないと解するのが相当である。いま、本件の東京都を被告とする訴変更の申立てについてこれをみるのに、原告が本件取消訴訟において主張する行政処分は、昭和四四年四月六日実施を予定していた集会、集団示威運動の申請についてなされたものであるというのであり、また、右訴変更の申立ては、同年四月二二日の本件第一回口頭弁論期日においてなされたこと記録上明らかであるから、本件取消訴訟の係属によつて生じた法的効果および利用されるべき従前の訴訟資料の点において、同法条による訴えの変更を認めるに足る基盤の存在を肯認しうる余地はないものというべきである。

それ故、原告の訴変更の申立ては、すべてこれを許さないこととする。

そこで、本件取消訴訟について判断するのに、同訴訟の対象たる処分は、原告の申請に係る集会、集団示威運動の実施されるべき昭和四四年四月六日の経過とともにその効力を失つたこと明らかであるので、本件取消訴訟は、爾後その利益を喪失するにいたつたものというべきである。

されば、本件訴えは、取消しを求める処分の特定および違法事由の具体性を欠く等の違法があるが、これらの補正をまつまでもなく、訴えの利益を欠く点において、すでに不適法な訴えであるので、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部吉隆 渡辺昭 斎藤清実)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例